1.積極損害
※各項目をクリックすると説明文が表示されます。
- 治療関係費
- 治療費については、(1)症状固定までの(2)必要かつ相当な治療費全額が損害に該当します。
(1)症状固定後の治療費は原則として損害に該当しません。ただし、症状の悪化を防ぐ必要があるなど後遺症の固定を維持するために不可欠の場合(たとえば抗てんかん剤の服用)や、治療により幹部の苦痛が緩和される効果がある場合などには認められることがあります。
柔道整復、鍼灸、マッサージ費用については、医師が治療上必要と認めて指示した場合は認められますが、そうでない場合には、裁判においては減額される例が多いです。
将来の手術費については、その支出が確実な場合には、現在の損害として認められることがあります。判例上認められたケースとしては、将来の右大腿骨頭カップの置換術費として15年後、30年後、45年後の治療費を認めたものがあります。 - 付添看護費
- (1)入院付添費と(2)通院付添費がありますが、いずれも医師の指示があるか、被害者の受傷の程度や年齢などから付き添い看護を必要とする場合には付添看護費用を請求することが出来ます。
入院付添費については、看護師や家政婦など職業的付添人を雇った場合には支払った付添料の全額を、近親者が付き添った場合には1日あたり6500円程度が損害として認められます。
通院付添費については、1日あたり3000円~4000円程度が損害として認められます。 - 入院雑費
- 入院中は、治療費以外にも、日常雑貨品、栄養補給費、通信費等こまごました雑費がかかります。これらをすべて逐一主張立証することは煩雑であることから、入院1日につき1500円の低額の入院雑費が損害として認められます。
また、重度の後遺障害が残存し、長期間の施設生活や自宅介護を余儀なくされた場合には、介護日数1日あたり同程度の介護雑費が将来の損害として認められることがあります。 - 通院交通費・宿泊費
- まず、バスや電車等公共交通機関や、自家用車を利用した場合には、実費を請求することが出来ます。
タクシーやハイヤーについては、傷害の部位、程度、年齢、交通事情等からそれらタクシーを利用せざるを得なかった事情があるときに限ってタクシー代等が損害として認められます。たとえば、病院への通院が、公共交通機関を利用しようとすれば、自宅から1時間かけて徒歩で駅まで出なければならず、タクシー利用はやむを得なかったとして、タクシーによる通院交通費を認めた裁判例があります。 - 装具、器具購入費
- 事故による後遺障害のために、日常生活に支障を来した場合、それをカバーするための装具、器具購入費が損害として認められます。
また、定期的に交換をしなければならない装具、器具については将来の費用も原則として全額認められます。
たとえば、義眼、メガネ、コンタクト代、義足代、関節装具、コルセット、車いす、電動ベッド、電動リフト、歩行訓練機などがあります。 - 家屋・自動車改造費
- 重篤な後遺障害が残った場合、家屋や自動車を改造しなければ従前どおりの生活が営めないことがあります。その場合、被害者の受傷の程度、後遺症の程度・内容から必要性があれば、家屋・自動車改造費のうち相当額が損害として認められます。
ただし、介護費と同様、家屋改造費については場合によっては高額となることから、医師や建築士の意見書等を弁護士と被害者が協力して集めるなど、きめ細かな立証活動が必要です。 - 葬儀関係費用
- 葬儀費用は原則として150万円が損害額として認められます。ただし、これを下回る場合には、実際に支出した金額が損害額となります。
2.休業損害
休業損害とは、交通事故により受けた傷害のため休業を余儀なくされ、その間収入を得ることが出来なかったことによる損害をいいます。
計算式は
休業損害=1日の基礎収入×休業日数
です。
後遺障害が残った場合には、事故後症状固定まで、死亡された場合には事故後死亡日までの休業損害が認められます。
休業損害において特に問題となるのは、基礎収入をどのような資料で証明するかという点です。
- 給与所得者
給与所得者の場合、勤務先発行の休業損害証明書や源泉徴収票等により証明することになります。
現実の収入減がなくても、有給休暇を使用した場合は休業損害として認められます。
また、休業期間中、昇給・昇格があった場合は、それ以降当該収入を基礎としますし、賞与の減額や不支給についても損害として認められます。 - 事業所得者
自営業者や自由業者などの個人事業者の基礎収入は、前年度の所得税の確定申告書で証明しますが、業績に変動がある場合は、数年間の実績を平均して計算することになります。
しかし、事業者の中には確定申告をしていないケースもかなり見受けられます。そのような場合は、事業の実態に応じて賃金センサスの平均賃金または平均賃金を減額した金額を基礎に計算する裁判例が多いといえます。 - 主婦などの家事従事者
専業主婦の場合、賃金センサスの女子労働者の全年齢平均の賃金額(平成23年の場合355万9000円)を基礎として、受傷のため家事労働に従事できなかった期間について認められます。
パートタイマー、アルバイト等の兼業主婦の場合は、現実の収入額と女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方を計算の基礎とします。 - 失業者
失業者については原則として休業損害は認められませんが、(1)就職が内定している場合や、(2)治療期間中に就職の可能性があれば、認められることもあります。
3.後遺障害による逸失利益
後遺障害による逸失利益とは、交通事故によって後遺障害が残り、それにより労働能力が一部失われ、その結果減収が生じた場合に、その減収を損害ととらえるものです。「交通事故が無かったら被害者が得られたであろう収入と、事故後に現実に得られる収入との差額」といってもよいでしょう。
計算式は
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
です。
- 基礎収入
この点については、休業損害について説明したことがあてはまるので、こちらをご参照ください。 - 労働能力喪失率
症状固定後に後遺症が残存した場合、当該後遺症を「後遺障害別等級表」にあてはめて、損害保険料率算出機構あるいはその下部組織の調査事務所が後遺障害等級認定を行います。
等級認定がなされると、原則としてその認定された後遺障害等級に対応する労働能力喪失率が適用されることになります。
※具体的には、損害保険料率機構のホームページ上の資料
http://www.giroj.or.jp/service/jibaiseki/shiharai/100610toukyu.pdf
http://www.giroj.or.jp/service/jibaiseki/shiharai/list.html
をご参照ください。
たとえば、「1上肢を手関節以上で失った」場合には、後遺障害等級第5級が認定され、79%の労働能力喪失率となります。
また、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残す」場合には、後遺障害等級12級が認定され、14%の労働能力喪失率となります。 - 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
- 労働能力喪失期間とは
労働能力喪失期間とは、原則として「症状固定日から67歳まで」です。ですので、たとえば45歳で症状固定したのであれば、22年間になります。
ただし、症状によっては、67歳までの労働能力喪失が認められなかったり、期間に応じて徐々に喪失率を低減させていくことなどが行われます。 - ライプニッツ係数とは
後遺症による逸失利益は、本来「将来発生する損害」です。したがって、当該損害について一括賠償を求める場合、「将来発生する損害」を現時点での損害額に計算し直すことが必要となります。
ここでは詳細な説明はしませんが、たとえば労働能力喪失期間が10年間の場合、単純に
基礎収入×労働能力喪失率×10
とするのではなく
基礎収入×労働能力喪失率×7.722(10年間に対応するライプニッツ係数)と計算することになります。
※ライプニッツ係数は、損害保険料率機構のホームページ上の資料
http://www.giroj.or.jp/service/jibaiseki/shiharai/list.htmlをご参照ください。
- 労働能力喪失期間とは
- 具体例
症状固定時の年齢:48歳
年収:680万円
後遺障害等級:第8級
労働能力喪失率:45% の場合
6,800,000×0.45×12.085(※)
=36,980,100円
が後遺症による逸失利益額となります。
(※)48歳から67歳までの労働能力喪失期間19年間のライプニッツ係数
4.死亡による逸失利益
死亡による逸失利益とは、将来得られるはずだった利益が、事故で死亡したことによって失われたことによる損害です。
計算式は、
基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
です。
- 基礎収入
この点については、休業損害について説明したことがあてはまるので、こちらをご参照ください。 - 生活費控除
被害者が死亡した場合、死亡後の収入が無くなる一方で、被害者が生きていれば生じたであろう生活費の支出の必要がなくなります。そこで、判例上、死亡による逸失利益を算定する際には、生活費を控除することになっています。
具体的には以下のとおりです。- 被害者が一家の支柱のとき
(ア) 被扶養者1人の場合 40%
(イ) 被扶養者2名以上の場合 30% - 被害者が女性(主婦、独身、幼児等を含む)の場合 30%
- 被害者が男性(独身、幼児等を含む)の場合 50%
- 被害者が一家の支柱のとき
この点については、後遺障害逸失利益について説明したことがあてはまるので、こちらをご参照ください。
死亡時の年齢:35歳
年収500万円の独身男性 の場合
5,000,000×(1-0.5)×15.8027(※)
=39,506,750
が死亡による逸失利益額となります。
(※)35歳から67歳までの労働能力喪失期間32年間のライプニッツ係数
5.入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、障害による肉体的苦痛、入通院による時間的拘束などによる精神的苦痛を慰謝するためのものです。
原則として入通院期間を基礎として、算定基準表により算定することになります。
たとえば、大腿骨骨折で入院1ヶ月、通院3ヶ月の場合は、162万円となります(裁判基準の場合)。
※ただし、通院期間が長期間にわたり、かつばらつきがある場合には、実日数の3.5倍程度を通院期間の目安とすべきとされています。
6.後遺障害慰謝料
症状固定後、後遺症が残存した場合、後遺障害等級を基準として後遺障害慰謝料額が定められることになります。
たとえば、第1級の場合は2800万円、第10級の場合は550万円、第14級の場合は110万円などとなっています(裁判基準の場合)。
7.死亡慰謝料
死亡による慰謝料額は以下のとおりです。
- 一家の支柱
2800万円 - 母親、配偶者
2400万円 - その他(独身者等)
2000万円~2200万円
※ただし、場合によっては慰謝料の増額が認められることがあります。たとえば、
- 加害者の故意、過失が大きいこと
- ひき逃げ
- 損害賠償における加害者の不誠意
などの事情です。
8.その他の損害
- 弁護士費用
裁判を提起した場合には、弁護士費用が損害として認められることがあります。
もっとも、依頼者が負担する弁護士費用全額ではなく、弁護士費用を除いた賠償額の10%程度が原則となります。
なお、判決では無く、裁判上の和解の場合は原則として弁護士費用は損害として認められませんが、最近では和解でも「調整金」の名目で相当金額を上乗せする例が増えています。 - 遅延損害金
事故日から5%の割合による遅延損害金が発生します。
事故発生後に自賠責保険金が支払われた場合には、まずは遅延損害金から充当されることになります。